約 514,068 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2565.html
十話 『十五センチメートル程度の死闘 ~1/2』 「あららん? その後姿はもしかして鉄ちゃんと姫ちゃんじゃないかしら。それとも私の気のせいかしら。 うん、きっと気のせいよね、失礼しました~」 背後から声をかけてきて一方的な納得をされ、そのまま私達とは別方向へ行ってしまおうとする紗羅檀さんに、私はなんとなく 『見覚え』 があった。 私の知る神姫なのだから 『見覚え』 があって当然なのだけど、ここで私が言いたいことは、そういうことじゃない。 その紗羅檀さんは人間サイズだった。目線が私より少し高いくらいだ。 腕と足は指先まで黒く染まり、胴体にあしらわれた金の意匠が微妙に安っぽく光を反射して眩しい。頭部をクワガタの鋏のように囲むアクセサリーもちゃんと再現されており、薄紫の長い髪も、武装神姫の紗羅檀と同じように整えられていた。 歩き去ろうとする紗羅檀さんの後ろ姿もやはり本物を再現されていて、だだっ広い改札口前を歩く老若男女の視線が、大きく開かれた背中に集中していた。 私達はただ、ポカンと口を開けたまま、その方を見ていることしかできなかった。手作り感溢れる艶かしいその姿に目を奪われるというより、感心していいやら呆れていいやら分からないといった感じだ。 よく出来ているのは認めるけど、人が行き交う日常に紛れ込んでいい姿じゃなかった。 恥じ入ることなく堂々とした紗羅檀さんの肩の上には、同じ格好をした身長15cm程度のオリジナルがいた。 「どこに行くのよ千早さん、そっちは神姫センターじゃないし、さっきの方達は気のせいでもなく鉄子さん達だし――ああもう! だからついて行きたくなかったのよ!」 チンピラシスターだったコタマでも軽くあしらってしまうミサキの、頭を抱えて取り乱す姿は新鮮だった。 「あらホント。鉄ちゃんと姫ちゃんと、それにボーイフレンズじゃない。あなた達も鉄ちゃんに謝りに行くの? あら、でも鉄ちゃんはここにいるのよね。あ、もしかして鉄ちゃんの双子のお姉さん?」 こちらに向き直り近づいてくる千早さんから、私以外は少し後ずさった。連れている神姫達も、神姫なのに大きいというチグハグさに少し怯えている。 「い、妹君、何ですかこれは」 「これ、とか失礼なこと言わんの。私がバイト先の物売屋でお世話になっとる千早さんよ。どうもです、どうしたんですかその格好」 「バカ、な~に話しかけてんの。他人のふりしろよ」 日頃の恩すら覚えておけない哀れなコタマを鞄の底に押し込んで、私は快く千早さんに近づいた。 背比と貞方、それに傘姫について来てもらっても、神姫センターに対する不安は拭いきれるものじゃなかった。電車に乗って、あとは神姫センターまで歩くだけ、というところまで来ても、いや来たからこそ、引き返したいと思う気持ちは強くなるばかりだった。千早さんの姿を見るまでは。 「奇遇ですね千早さん、私達も丁度神姫センターに行くとこやったんですよ。いやあ、ここでお会いできて嬉しいです。でも千早さんとミサキが神姫センターに行かれるとは知らんかったです。そのコスプレも良う出来てますし、なんか用事があるんですか」 「やあねえ、今日は鉄ちゃんに謝りに行くんじゃない。でも良かった、肝心の鉄ちゃんがいつ来るか分からないらしいじゃない? だからタロットで占って今日この時間だって見当つけたんだけど、どう? 私の魔術的才能はすごいでしょ」 「す、すごいです! 今度教えてください!」 (おい背比、なんで竹櫛さんはあの人と普通にしゃべれるんだ) (知らねーよ俺に聞くな。姫乃、竹さんとあの人って……) (尊敬してるって聞いたことある、けど、うん。えっと、私も千早さんは、す、すごい方だと思う、わよ?) (姫乃さん顔がひきつってますよ。マスター、あんまりあの人を見ちゃだめです。目の毒です) 私の背後で背比達がコソコソと話してるけど、どうせ千早さんの凄さを目の当たりにして尻込みしてしまってるんだろう。恥ずかしながら私も最初はそうだった。でも物売屋のバイトで度々千早さんとお茶を飲むことで私は、この人が21世紀のジャンヌ・ダルクと呼ぶに相応しい人物であることを知ることができた。この人と同じ年代に生きていられることに、感謝感激雨霰。 「ところで千早さん、私に謝りにってどういうことです? 千早さんに謝られることなんて何もされとらんです」 「さあ。それが私にもサッパリ。ミサちゃんは分かる? 私、なにか鉄ちゃんに悪いことしたかしら」 「……神姫センターに、鉄子さんに謝罪するという方が多くいると聞いて、じゃあ自分も行くと言い出したのは千早さんでしょうに。理由は聞いてないわよ」 ずいぶんと投げ遣りな物言いをするミサキだった。 「あらそう。でも何だか急に、鉄ちゃんに悪いことをした気になってきたわ。……本当にごめんなさい。私、ついカッとなって……」 「そ、そんな、頭を上げてください! 千早さんは全然悪くないですし、私のほうがいつも千早さんに迷惑ばっかりかけてます!」 千早さんに負けないよう頭を下げた私の肩に、優しく手がかけられた。そしてゆっくりと私の体を起こしてくれた千早さんは、いたずらっぽく笑いかけてくれた。 「じゃあ、別に悪いことをしたわけじゃない者同士、謝りっこはこれでお終いにしましょう。私と鉄ちゃんの間は前より4ミリも縮まったわよ」 「千早さん……!」 誰が見ていようと、私達は全然気にすることなく、改札口の前で熱い抱擁を交わした。紗羅檀コスプレのゴツゴツした部分が当たって痛かったけど、構わず千早さんに甘えた。 「妹君、そろそろ……」 マシロに促され、名残惜しみながらも千早さんから離れた私は、躊躇うことなく神姫センターへの歩みを進めた。すぐ後ろの千早さんが集める視線と、少し遅れてついて来る背比達が、私を得意な気分にしてくれた。 体が軽い。 こんな幸せな気持ちで歩くなんて初めて。 もう何も怖くない! ドールマスターがリアルドールを連れて来た。 人間大の紗羅檀の登場に、神姫センターはイベント時のような賑わいを見せた。 パーツを物色していたお客も、私を見るなり店長を呼んでくると言う店員も、その目は千早さんに釘付けにされていた。 小走りでやってきた冴えないおじさん店長は千早さんに驚きつつも、私の前でペコペコと頭を下げた。そして懐から封筒を取り出し、中身を私に見せた。 「こちらをお出し頂ければ、武装神姫1体をお持ち帰り頂けますので、はい」 もうコタマはレラカムイとして復活したと告げても、店長は引換券の入った封筒を無理やり私に握らせた。 「貰えるもんは貰っとくもんだよ鉄子ちゃん。いらないんだったら隆仁にでもあげたら? アタシのこの体でストックが無くなっちゃったらしいし」 それもそうか。コタマの言うとおり後で兄貴に渡すことにして、封筒を鞄にしまった。 店長の話だと “あの時” 居合わせた神姫オーナーの数人が2階に来ているらしい。 “あの時” に誰がいたかなんて覚えているはずないのに、それでも顔だけ出してくれ、と言う。昨日、貞方が見せた写真に映っていた神姫は明らかに “あの時” にいた神姫の数を上回っていたことだし、戦乙女戦争のように無関係な神姫までノリで筐体に立てこもっているのだろう。 そういえば店内にはお客の対応とディスプレイを兼ねた神姫達がいるはずだけど、今は一体も見当たらない。彼女達も恐らく、2階の筐体の中にいる。店長の平身低頭ぶりはこのためかな。 「じゃあ竹さん、行こうか」 湿った手を握りしめ、私達は2階への階段を上がった。 神姫が集まった森の筐体の中は、画像で見るよりもずっと酷い有様だった。バッテリーを切らしてしまっった神姫が半分ほどいて、起きている神姫達は私が近づくなり 「ほら、ドールマスターが来たよ! 早く謝れ! ハリアッ!」 とかなり焦っているようだった。 名前も顔も知らぬオーナーに謝罪されても、私は曖昧な返事しかできなかった。いくら千早さんの登場で気分が高揚していたって、ハーモニーグレイスだったコタマの無残な姿を忘れることなんて、できるはずがなかった。 沈黙する私と、気まずそうに目を泳がせる名も知らぬ悪者。 「さっさと土下座するですぅ!」 と煽る神姫達。どうしようもない雰囲気が流れ始めた時、鶴の一声が私の鞄から響いた。 「な~にゴネてんだ面倒臭え! いつまでもウジウジやってんじゃねぇよ鉄子ちゃん。こんな連中ホントはどうでもいいんだろ、さっさと追い返せよ。オマエらもいつまでも筐体で森林浴してんじゃねぇよ、この森ガール共が! バトルできねえだろうが!」 甲高い声でやいのやいのと騒ぐレラカムイに不審の目が集まった。でもその乱暴な口調には覚えがあったらしく、私が新生コタマを紹介すると、みんなドールマスターの復活を喜んでくれた。これで神姫達はようやく溜飲を下げてくれた。 神姫達がゾロゾロと筐体から出てきたけど、バッテリーが切れた神姫をおぶる者や、オーナーが一時帰宅していて帰れず、筐体の中に留まる者も多くいた。事の収束にはもう少し時間が必要みたいだ。 千早さんとミサキの即席撮影会が賑わう間、1階のショップでは急速充電器が飛ぶように売れ、それを2階のフリースペースに持ってきて使うオーナーが多数いた。帰宅せず神姫センターに残るオーナーのやることは、2つ。 まず1つは当然、大きな紗羅檀の姿を目に焼き付けること。 紗羅檀の際どい衣装は単細胞なオーナー達をあっという間に虜にしてしまった。 鼻の下を伸ばして不躾な視線を送り続ける単細胞共は不愉快でしかなかったけど、囲まれた千早さんは寛大で、カメラに向かってグラビアのようなポーズをとっていた。 「どうしましょうミサちゃん。一度でいいからモデルをやってみたかったんだけど、それが叶っちゃった。後でヤコくんに自慢しなくちゃ」 「八幸助さんには絶対に言わないで頂戴。自分が既婚者ってことをもう少し――そこ! カメラを下から向けない! ほら千早さん、胸の武装がズレかかってるじゃない、早く直して! 何見てるの、見世物じゃないのよ! こ、こら、私を撮影してどうするの! やめなさい! あああああもう! これだから外に出るのは嫌なのよ……!」 この日を境に千早さんが神姫センターで神格化され、物売屋のお客が少し増えたのは、また別の話。 そして、もう1つ。今日のメインイベント―― 「『グレーゾーンメガリス!』」 多数の神姫に紛れて助走をつけたマオチャオが、大きなハンマーを振りかぶって飛び出した。セカンドのライフルで近づく神姫を一掃していたコタマの虚をついた、上手い一撃だ。見ている俺達が、コタマのなぎ倒される姿まで想像したその一撃を、 「おっと」 の一言でファーストを送り出して、片手のガントレットでハンマーを容易く止めてしまった。 「クソッ、技のキレが増したなシスター!」 「もうアタシはシスターじゃないよん。それとアンタのその技は一度見てるからね、実は最初からちょっと警戒してたもん」 ファーストにハンマーを掴まれたマオチャオがハンマーから手を離して離脱するより早く、セカンドのライフルが火を吹いた。 ファーストとセカンドの両方が一匹のマオチャオの方を向いた瞬間、コタマの背後から多数の神姫が襲いかかった。その気配を察してなお、コタマの余裕の笑みが崩れることはなかった。 蘇ったドールマスターとの勝負を望む者は多く、せっかく人数が集まっているのだからと、大規模なチーム戦……とは名ばかりの、モンスター狩りが始まった。 竹櫛家 VS 機械少女連合軍 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/busou_bm2/pages/156.html
とにかく、新作を出してほしいな・・・ -- (名無しさん) 2015-07-08 00 06 54 コンマイは全てのユーザーを敵に回した以上、次回作を望むのは無理と見るべし。 -- (名無しさん) 2015-07-08 17 41 41 全てのユーザーってなんかあったっけ? -- (名無しさん) 2015-10-12 00 03 50 武装神姫のゲームによるブーム復活、 その先駆けとして、バトマス最新作が出たら、買う。 -- (名無しさん) 2016-01-26 17 02 52 仮にリメイク版が出るなら最初から黒子を使わせてほしい…あんばるが最初からいるのに対がF2後って… -- (名無しさん) 2016-03-25 16 08 41
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2629.html
「よろしくお願いします!」 「……よろしく」 フィールドに降り立ったミスズ。バイザーで口元しかわからないが、挨拶を返しくれるスポーツ精神はあるようで、相変わらずの大剣を構えて仁王立ちのイスカ。 ミスズの方は、ヘッドパーツ、胸部アーマーやら脚部にも装甲が付けられていて、背中にはさっき見たのとは違い、ロケットが付いてない機翼。 そして手に持つは両刃の光剣ダブルライトセイバー。なんか、いつも見てるミスズと比べて、ものすごく格好いいな。 ダブルライトセイバーを構えて地を蹴り、イスカに向かうミスズ。 そして、真正面から両者切り結ぶ。 今のところ、イスカはあの大剣しか使ってはいない。ミスズは他にも武装を使うのだろう。でも、火器類はさっきみたいに、あの大剣で防がれるかもしれない。しかも、移動は最小限、武道のような足運び、そして大剣を片手だけで扱い、ミスズのダブルライトセイバーを捌いている。 ダブルライトセイバーを棍のように扱い、中国のアクション映画さながら流れるような攻撃を加えていく。だが、イスカは幅広な大剣を使いそれすらもことごとく往なしていく。 「たぁっ!」 ミスズの気合いの一声。 大剣の間合いから一歩踏み込む。懐に入り込み大剣の刃に触れる寸前まで、身体を押し出し、付けているバイザーごと頭部を刺し貫こうとする。 だが、それも身体を軸足でない方を後ろに滑らし、半身になり大剣で反らすイスカ。 「甘いっ!」 「!?」 反らされた瞬間、ミスズはそのまま受けた反動を利用して、グルンと身体全体を独楽のようにして捻ねった。光学の剣特有の動作音を強く発しながら、エネルギーの刃がイスカに迫る。 ……どうだ!? 「――当てられると思ったんですけどね」 瞬時に間合いから離れたイスカを見て、ミスズが驚いている。 そこには、バイザーが付いてない姿のイスカがいた。空いていた方の手にナイフを持ち、逆手に握っている。 二人がいる奥の方、バイザーはずいぶんと遠くに飛ばされているみたいだ。 とっさの判断でナイフを持ってきて頭部を紙一重でガードはしたが、バイザーに当たりあられもない方向に飛んで行ったということかな。 隠れていた目元、イスカの瞳は真っ赤になっていて、深紅の大剣と相まって、血の色に思えてしまった。……本物の悪魔みたいな、こんな悪魔型もいるのか。周りの悪魔型はもう少し可愛らしいのが多いのに。 「……少しはできる」 顔が若干嬉しそうに見えた。ミスズの事を好敵手と認めたらしい。 そして手に持っていたナイフを腰に仕舞い、大剣を両手で持ち始めるイスカ。ここからは本腰を入れてやるということみたいだ。 「相手も本気みたいだ。あれは二度は通じないだろうからな。とりあえずけん制!」 ミスズの手からは、シンプルなハンドガンが転送されてきて、空中を飛んでつかず離れずの位置でイスカに向け撃ち込む。 「……無駄だ」 しかし、どんな場所からでも、あの大剣で防がれる。 前後左右器用に大剣を使い、死角がないように、鉄壁の防御となっている。よほどの高火力の武装でないとあれを崩すのは難しそうだ。 「……来ないならこっちから行くよ」 大剣を持ったまま移動することが出来るのかと思ったけど、軽々と使っているのだから、移動も支障ないのか。 大剣を後ろに倒し、ミスズに向けて駆けていく。 ミスズの真下の近くまできて、そのまま足を曲げ地面から一気に跳躍。背中に付いたブースターみたいのを補助に使い弾丸のように跳んだ。 「……それ!」 「くぅっ!」 ミスズはあまりの跳躍の速さに回避行動が間に合わず大剣の弾丸が激突する。 持っていたハンドガンは弾き飛ばされ、持ち手と腕を使いダブルライトセイバーで盾にしたが、ミスズ自身も吹き飛ばされる。 イスカは大剣を握り直し、膝を曲げて地面に降り立つ。空中を飛ばれてても、まったく不利にもなってない。素人の僕から見てもすごく強いな。 ミスズは空中のまま木の葉のように翻し態勢を立て直す。 「このままだとやられる。ミスズ、昨日考えたのやるぞ!」 「わかりました!」 来る前に言ってたのかな? 淳平の大きな声に負けない程の声量で答えるミスズ。 光刃を消した柄をを腰のスカートに仕舞い、両手から転送されてきたのは、今度は武骨なサブマシンガンの銃二丁で、強く握りその場からもっと高く飛び上がる。 「よし、弾丸包囲だ。いけ!」 「了解。はぁぁー!」 あれが新戦法とやらなのか、サブマシンガンをイスカに向け乱発しながら、周りを縦横無尽に飛び回っている。 バババっと断続に銃声を轟かせ、空中を駆ける天使。 なるほど。 大剣では一方向しか展開できないとみて、四方八方から銃撃を加える作戦か。淳平のくせによく考えるな。これならもうちょっと学校の勉強とかにも向けて欲しいのだけど。 荒野のステージには、もうもうと土煙が立ち始め、空中を飛んでいるミスズは見えるが、イスカのいる辺りの確認がまったくできない。 サブマシンガンを撃ち切り、両者がいた付近から、できるだけ離れた位置に降り立つミスズ。全力疾走後みたいに、銃を持った両腕をダラリと下げ肩で息している。 「……はぁ……はぁ……どうでしょうか?」 「わからん」 土煙が上がり続けていて、何も反応がない。静寂が場を包む。あんなに撃ち続けていて銃声があったのに、急に静かになるとなにか不安が残る。 煙が少しずつ減ると、周りが確認できてきて……―― 「――カハァッ!」「ミスズ!!」 ミスズは目を見開き顔を苦悶にし、同時に淳平は声を上げた。 煙の風向きが丸まり、目を離した筈はないのに、突然姿を現し疾駆してきた赤目の悪魔。その手に持つのは大剣ではなく、腕部に取り付けた杭打ち機『パイルバンカー』 それをミスズの胸部、正確には鳩尾に重く突き上げていた。ボディーブローのごとく剛腕で打ち、アーマーがあるとはいえ、杭のある腕で殴られたミスズは口から空気しか出せない。 「……楽しかったよ。じゃあね」 瞬間、火花が飛び散り金属製の杭を射出。 貫かれたミスズはなす術もなく、その場の空間から掻き消えていった。 ―――― 「やっぱり、勝てなかったか」「いやでも、初めて大剣以外に使ったのを見たぜ」「ああ、バイザー取っ払った姿も初めてだし」「かなり、善戦した方だよな」「いやー、あんなアホそうな学生がねえ」 観戦していた周りのギャラリーはもう試合はないとみて、感想を口々に出しながら、バラけて行った。 画面を見ていた僕はすぐさま淳平の傍に駆け寄る。 「すいません、マスター。負けてしまいました」 「いいって、いいって。気にすんな……おう! 螢斗」 僕に気が付き、今までミスズをなぐさめていた手を止めて振ってきた。 「はぁ……なんで、勝負しかけたの?」 「だってさ、あんな試合見てたら、挑戦してみたくなるじゃん。やっぱ、まじかで見るとすっげー強いな」 「……。ミスズは、平気? なんともない?」 「はい。大丈夫ですよ。ご心配おかけしました」 「あれ~、お~い」 アホな淳平を放っておいて、僕はミスズが心配になり声をかける。やっぱり電脳空間といえどあんな杭が刺さったら痛いものだろう。あんなの物がリアルバトルなんかで使ってやられたら、絶対に神姫が危ない。最悪、死んでしまうし、武装神姫の世界でも命がけの戦いがあるんだな。 「キミたち、こんにちわ」 と、突然声が聞こえてきた。横から声をかけられたと気付き、僕と淳平は振りかえった。 見れば、向こう側にいたストラーフのオーナーの人が僕たちに挨拶をしてきてくれていた。 「さっきのでかい声にちょっと驚いたけど、結構やれるのにもっと驚いたわ」 嫌味がないように、素直に淳平の事を称賛してくれている。 また勇気と無謀を履き違えた人が申し込んできたと思ったんだろう。実際、僕もミスズはともかく淳平が指示して戦わせる姿が思い浮かばなかったからな。 「でも、ボロ負けだったじゃないすか」 「いいえ、あの突くのを囮にして本命は回転斬りのところ、結構危なかったのよ。私の指示が聞こえてなかったら、イスカは一本とられてたわ」 「え、そっちすか? 俺は弾をばら撒く作戦とか自信あったんすけど」 「あれはだめよ。相手の姿見えなくしたら、次の行動読めなくなるし、現に防ぎきっているのわからなかったでしょ。あと、いくら機動力のあるアーンヴァルでも、大きすぎる動きをしたら次の行動に支障が出るわ。だから大振りなパイルバンカーの攻撃も食らうのよ」 「ははー、なるほど。参考になるっす」 ダメだ。聞いている僕にはついていけない会話だ。バトルの意見交換をされても入り込めない。 でも、僕はこの人に用があって来たんだ。神姫バトルに興奮している場合じゃない。 「あ、あの!」 「ん? ああ。そうだったな。ええと俺は伊野坂 淳平。神姫はミスズ。こいつは長倉 螢斗です。俺の友達なんですけど、実はこいつの用事がおねえさんに会う事だったんですよ。バトルは俺のただの気まぐれで、俺の方はただの付き添いですんで」 「へぇ、私は宮本 凛奈。神姫はイスカね。ちょっと戦いすぎて今はスリープモードになっているけど。で、私に用事って、なにかな?」 違う人という可能性もあったけど名前を聞いて。この人なんだと確信した。単に似ているだけの可能性もたった今消えた。 「あの、……山猫型の神姫をなくしたりしてませんか?」 「もしかして!? あの子のことを知っているの」 「はい。つい最近拾いまして、……僕の神姫になっています」 動揺しているこの人の淡い水色の目を、真っ直ぐに見つめて言う。シオンを追い詰めることをするようには見えないけど、でも彼女は苦しんでたんだ。ちゃんとした神姫オーナーだったら悲しませるような事はしない。 「……そう。あの子……よかった」 でも、この人は僕の神姫になっていたという事に安堵していた。 「なんで!? 元々あなたのでしょ。責任持って神姫を扱ってください!」 「……おい」 「あ……すいません。……失礼な事を言いました」 おもわず声を荒げてしまった。淳平に止められなかったら言いたいこと全部をここでぶちまけていた。 「いえ、私が悪いのだし。あの子だって恨んでいたでしょ?」 「恨んでいるなんて言ってませんでしたし、逆に悲しんでいました。傍にいられなくなる程に。僕の神姫になってくれる了承もしてくれましたけど、まだ引きずっているんです」 「……そう。わかったわ。詳しく話したいのだけど、ここじゃ無理ね。私この後用事があるのよね、携帯のメアド教えてくれる? 後で連絡するから」 「わかりました」 ポケットから携帯を出して、お互いのプロフィールを送受信する。携帯はシンプルでストラップもなにもない。ぼくも、そうなんだけどね。 「あー、おれもしていいっすか?」 頭を掻いてなにやら言いずらそうにしている。まあ、僕のせいで空気が重くなってしまったし、淳平もこの空気を読んでいてくれてたんだろう。 「ふふ。まあ、いいわよ」 「そうっすか!? やったー!」 了承してくれた宮本さんに、淳平はガッツポーズをしてものすごく喜び、すぐさま携帯を取り出して操作している。美少女じゃなくても結局綺麗な女性だったら誰でもいいのか。 そして、胸ポケットには凍えるような瞳をして淳平を見るミスズが。やばいだろ、あの目は。 「あ、それじゃ。そっちの都合でいいので、後ほど連絡を。ほら、行くよ淳平」 「またレクチャーしてくださーい」 僕は危機的状況を理解してない淳平を引っ張って、ゲーセンの出口に向かう。 後ろからは「また、後で」と小さく聞こえ、それに返事をしてその場をあとにした。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/busosodo/pages/110.html
【武装神姫】セッション3-0【SW2.0】 http //www.nicovideo.jp/watch/sm18943912 追加ハウスルール:ニトリの特殊加工 d66(1d6×2回の組み合わせ)を振って、その出目によって武具強化が出来る。 種類も効果もランダムな博打強化。ガンは今のところ未対応。 ランクBは4回まで、ランクAは3回まで、ランクSは2回まで、ランクSSは1回限り。 武器加工 2回目の出目 防具加工 2回目の出目 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1回目の出目 1 ダメ増減 -1 -1 ±0 ±0 +1 +1 1回目の出目 1 強化失敗 1000Gが水の泡 2 威力増減 -3 -2 -1 +1 +2 +3 2 防護点増減 -1 -1 ±0 ±0 +1 +1 3 C値増減 +1 +1 ±0 ±0 -1 -1 3 回避増減 -1 -1 ±0 ±0 +1 +1 4 命中増減 -1 -1 ±0 ±0 +1 +1 4 必筋増減 +3 +2 +1 -1 -2 -3 5 必筋増減 +3 +2 +1 -1 -2 -3 5 魔法被ダメ増減 -1 -1 ±0 ±0 +1 +1 6 好きな種類 選んだ種類による 6 好きな種類 選んだ種類による 追加ハウスルール:≪かばう≫について ≪かばう≫を持たない人でも、補助動作と主動作を消費する事によって、対象に≪かばう≫を行えるものとする。 この≪かばう≫を実行する際、補助動作での行動や魔法の行使等は行えないものとする。 その他は通常の≪かばう≫と同様の制限を受ける。 例:各種練技、賦術等 以上原文ママ。 戦闘特技≪かばう≫を持っていなくても、補助動作・主動作を放棄することで、かばう宣言が出来る? (*1)
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/935.html
皆様、始めましテ。自分ハ第6弾建機型MMSグラップラップの試作機、ビルトと申しマス。只今自分ハ神姫センターの一角ニ有ル、とあル店舗ニ居リマス。 「さーさー、キモオタ共も婦女子諸君もよってらっしゃいですにゃ! うちは安さと品揃えじゃ他のツイヅイを許さないですのにゃ! ホラっ! 其処のこぎたにゃいアンタ、自分の神姫に甲斐性見せたって損は無いのですにゃよ?」 「小汚くって悪かったな、仕事帰りだよ。・・・あ、そういやシビルが何故かツナギなんて着たがってた覚えはあるけど、流石に・・・」 「あるですにゃ。ピンクのツナギだって完備完備!!」 自分ハ、武装神姫デ在りマス。つまりハ戦い合う為ニ開発されたタ機械でありマス。 「へえ、久しぶりに来て見たらこんなお店もあったのね。あ、これつくもに似合いそうな色のケープ。このストールとかロングスカートとか帽子も・・・」 「隊長ぉっ!! そんなものでお金使い切る前に、僕を早くメンテに連れて行って下さいよぉ!!」 「・・・何だか甘い匂いのする客だにゃ。店内への飲食物の持ち込みは止めて欲しいにゃ。試着の時ベタるから」 そしテ自分ハ建機型でありマス。建機と言えバ藤岡・・・でハ無ク、総じて無骨ナ外見ヲ有しマス。何故ならバその用途に見タ目は重要視されまセン。自分モそれニ習イ、見タ目ニ囚われズ何時か巡り合ウ自分ノ主の為ニ粉骨砕身すル所存デス。 「ったくネギの奴―、『俺は金出さないぞ。欲しかったら盗ってでも来い。俺はゴスロリ以外買う気は無い。そもそもゴスロリこそ、少女の魅力を最大に引き出すファッションでありetcetc・・・・』とか脳沸いた事言いやがってー! そんなに言うなら望みどおりにやってやるー! やっぱいいよなフライトジャケットはー」 「にゃに!? にゃーの目前で万引きするとはごっつええ度胸ですにゃ!! 行け下僕ぷちどもっ!! 泥棒カラスを北京ダックにするにゃ!!」 「後このスカジャンも・・・ あ? 何だこのぷち共はー。オレっちの邪魔を・・・」 「必殺にゃイツオブラウンドぉ~!!!」 射撃斬撃砲撃突撃爆撃襲撃狙撃打撃投撃鞭撃過激惨劇、盥。 「ぎゃー! まわってまわってまわってオチ~る~〈泣〉」 「・・・なのニどうしテ自分ハ服飾店ノ店員なドやって居ルのでしょウカ!?」 「新入り! つべこべ言ってにゃいで働くにゃ!! 手が多いからって使わなきゃムダムダにゃ!」 窓ヲ見れバ、人工光デ埋メ尽クされてイタ閉店時間。慣れヌ作業デ疲レ果てた自分ノ横デ、先輩はデコマ様よリ何かヲ受け取ル。在れハ、プリペイドカード? 「はいにゃーの助、バイト代だよ。新人教育の分、それとアレの分も含めて今日は多めにしておいたよ」 「さすがデコ魔ちゃん、あのヘタレと違って気前がいいですにゃ♪ これであのヘタレを素敵な刺激の旅へと誘えますにゃ♪ ぐふふふふ~♪」 「あはは、ほどほどにね。それじゃあ、お疲れ様。兄さんによろしく」 「お疲れにゃ! また猫の手が借りたくにゃったらいつでも呼ぶにゃ~♪」 言ウよリ早ク、先輩はカードを振リ回シながラ走り去って行っタ。もう見えナイ。しかシ神姫ニ・・・ 「さて、次は貴女の分を・・・」 「・・・神姫ニ、アルバイト代ヲ渡すノですカ?」 「え、変? だって正当な報酬じゃない?」 こノ人、こノ神姫用服飾店店長デ在リ、自分ヲ此処ヘ無断デ連れて来タ張本人で在ル彼女、通称デコマ様ハ、本当ニ不思議そうナ顔デ自分ヲ見つめ返ス。そんナ事、変ニ決まっテ居マス。 「労働基準法ニそんな項目ハ有りまセン。ソモソモ自分達ハ戦う為に造られタ武装神姫デス。其れガ人間の様ニ働くナド、可笑シイでショウ」 「えーでも、子供にお手伝い頼んだってお駄賃あげるのは普通じゃない? 別に正統さに法律関係ないよ。あ、でもお年玉とかたまに法で規制して欲しくなるな~。自分であげる様になってから切に思うよホント。それから役目が違うっていうのだってさ、副業で農家やるラーメン屋とか画材をアルバイトで買う画家とか・・あ、それは違う?じゃあ公務員・・はバイトしちゃいけないんだっけ。でも今じゃ公務員の給料下がりっぱなしだしバイトしないと食べてけないよねー。あ、そういえば昨日役所に行ったら丁度モトオさんがいてね、あ、モトオさんて私の恋人なんだけどコレがまた格好良くてね。でもそのとき手元を見たら貰っていたのが何とぜ・・・」 「兎モ角!! 自分ヲ開発部ニ返しテ下さイ!! ソモソモ何故ニ自分なのデスカ? 客引キでしタラ先輩ノ様ナ可愛らしいタイプを選定スレバ・・・イヤ其レ以前ニ・・・」 「でも建機型の貴女って腕いっぱいあるじゃない? だからいっぺんに服何個も持てて適材だと思ったの。それで貴女の開発会社に勤めてる友達の所に行ったの。そうしたら別会社だけど同じ第6弾試作2人は両方失踪した~って話してるじゃない? だから貴女もう一人くらい減っても大丈夫かなって思って。あ、でも皆会議やってたし、私も店の開店時間近かったから勝手に連れてきちゃったけど、ちゃんと断りの手紙は置いて来たよ。それにお給料は払うけど? そう言えば建機といえば土方子って娘がここのセンターによく来るの。今日はマスターだけ来てたけど。で、その土方子ちゃんも面白いんだよ。まああのカラーリングは重機と言うより猛獣注意・・・」 ソレニソレカラ彼是云々カンヌン・・・ト、デコマ様ハ矢継早ニ取り止めモ無ク話シ続ケル。この方ハ一度話し出したラ止まら無イらしイ。イヤそんナ事よりモ・・・ 「待って下サイ!! ソモソモ、どうしテ神姫ヲ雇用スル必要ガ在ルのデスカ!? 普通ハ人間ヲ雇用スルでしょウ!!」 「だってここ、神姫が自分の服買いに来る所だもの」 「・・・ハ? そんナ馬鹿ナ・・・アっ!!」 ソウ言えバ気ニなっテいまシタ。店内ノ通路ハ狭ク、小物陳列用什器ヲ改造したハンガー掛けハ店内ニ過密過ぎル程ニ配置さレ、奥まっタ場所ノ商品ハ完全ニ人間ノ目線からでハ死角ニなりマス。シカシ、ワザワザ神姫ガ手ニ取っテ見れル様、ソノ全てニ階段ガ用意されていマス。そしテ商品はパッケージングされずタグのミ、これハ明らかニ“玩具”でハ無ク“服飾”ノ陳列方法デス。更ニ、店内にハ神姫用試着コーナーすら有ル。 「・・・確かニ、神姫サイズに合わせタ服飾品点ト考えれバ、全テ合点ガ行きまス・・・」 「ついでにお値段も良心的でしょ? 神姫の貰えるお小遣いなんて大して高くないしね。布代は当然少ないし、“神姫用らしいある方法”でうちは製造コスト安いからこの値段で出せるの」 「しかシ、これハ・・・」 神姫ハ人間ニ従うモノ。神姫ハ人間ニ奉仕すル為ニ生まれタ機械。其レが義務。其レが目的。それなのニ・・・ 「神姫ガ自分ノ為ニ服を買うなんテ、全ク無意味デス!!」 「そお? でも奉仕するとか別にいいじゃないそんな事。私も好きでやってるんだよお店。色々な服作るのも見るのも好きだし、私の選んだ服で着飾った娘が喜ぶの見るの好きだし、色んな娘がワイワイ服選んでるの見てるだけだって楽しいし。大体オンナノコにとって服選びは一番楽しい事じゃない。その辺に体の大きい小さいは関係ないでしょ。だったら普段ココで気持ちよーくお買い物してたらバトルの時だって調子いいんじゃない? それにオーナーが自分の甲斐性見せるためのプレゼント用にって買いに来る場合もあるし、人間様にもそこそこ人気よ。あーそう言えば今度友達が作った神姫用の靴も販売するんだよココ。そしたらまた新しいお客さんも来るし、大体靴も合わせないと服って選びづらいし。あ、そうだ水着もあったら・・って、元々水着みたいなかっこうしてるか。じゃあ・・・」 「しかシっ!! 自分達ハ戦う為だけニ・・・造らレたモノなのデス」 「でも・・・だったらオンナノコの形に造らないでしょ。だからいいの♪ 小さかろうと大きかろうと、オンナノコが着飾りたいのは世の摂理よ!! それを邪魔なんて総理大臣だって出来ないでしょ♪」 「ハ・・ハイ・・・」 つまリ、女性であるなラ、着飾るのハ必然ニ近ク、それハ神姫であろうト変わら無イ。其れガこの方ノ考えらしイ。しかシ・・・ 「自分ハ、建機デス。見てくれなド、気にモ、されナイ・・・」 「じゃあ塗ろっか?」 「・・・ハイ?」 「実はずっと気になってたんだよね、そのアームの色。ちょっとジジくさいよねー。どうせならライムグリーンでどわ~って塗っちゃわない? バイオレットに白ストライプとかもちょっといいかも。あーラメもいいかもラメ。あとアクセ色々つけるとか? このアームに神姫用ブレス入るかなぁ? アンクレットの方が・・・あーそれは大きすぎかな。とりあえずリボンつけましょリボン。在庫はえっと・・・」 「イヤイヤイヤイヤ! 普通建機ニ其ノ様なビビットな配色ハ行わナイでショウ!!」 「そう? 似合うと思うけれど?」 「そうカモ知れマせんガ、しかシ・・・」 物にハそれなリノ根拠ガ有ルからこソ、配色ガ決めラレ、其れニ色を塗リ替えたとテ、其ノ本質マデ変えらレル訳でハ無いのデス。 「もー、カタいなあビルトは。いいじゃない見た目くらい好きでも」 そうハ言えド、例エ色如キを変えようトモ、自分ガ“機械”で在リ“建機”で在ル事にハ変わり無イのデス。其レでハ、只、虚しクなるだケ・・・ 「そもそも貴女って、建機“型”じゃない」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ア。」 「そう、つまり自分の好きな色でいいんじゃない?」 「・・・そンナ気ガして来まシタ」 「じゃあともかくリボンつけましょ。この深緑のとかどう?」 結、結、結、結、緑。 「・・・イイっ!!」 「イヤイヤ黄色に緑は悪趣味ですにゃ」 「ギャァっ!? 先輩!?」 「忘れ物取りに来たらナニ洗脳されてるにゃ新人。デコ魔ちゃんは別にあんたの事考えてるワケじゃにゃくて、単にヒトサマのモノだろーが神姫だろーがヒト自体だろーが気に入らにゃかったら徹底的に自分色に塗り替えちゃうだけな変人ですにゃ。ホラそこのヘンな色の壁とか道端にあった重機とか」 「えーでもこの前のロードローラーをレモンイエローに塗ったのは好評だったよ? ピンクも結構いいのよねピンク。ダンプ塗った時、赤系アクセントに入れたらカッコ良かったんだよねー、血が付いてるぽいって言われたけど。あーでも何でパールホワイトのバックホーは不評だったんだろう?・・・あ、汚れ目立つからだ。だったらシルバーを地にして、赤系でスリットを塗ったり~。でもこの前間違えて排気口ふさいじゃった事あったんだよね。あの時は結局機械が火を噴いて怒られた怒られた。だから・・・」 「塗ったンでスカ!? 重機を!?」 「え?うん。後放置自転車とかここのオーナーの車とか電車とかそれから・・・」 「イヤイヤイヤイヤ!! 器物損壊罪デスよ!!」 「それから・・・あれもこれもそれも・・・それで・・・」 「・・・聞いてテ居りマせんネ」 「新人、逃げるにゃら今のウチにゃ」 「うゥ・・・自分ハ一体何ヲ信じれバ良いのデショウ・・・」 「そんなもんにゃ、人生にゃんて」 ちゃんちゃん(?) 目次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2009.html
第壱話 キーンコーンカーンコーン×2 国立学校法人・東都大学の構内に午前の講義が終わった事を知らせるチャイムがなる。 「はい、それじゃあ来月までにレポートの方を提出してください。テーマは「冊封体制と列強帝国主義の比較」です。これを出さなきゃ単位はあげません、よって進級できません」 中年の教授が課題を説明して文学部史学科東洋史専攻の午前の講義は終わった。 「さてと、今日の講義はもう無いし、これからどうしようか」 「いよぅ、同志よ。今はお暇かい?」 帰り支度をしながら考え事をしていた優一は声をかけられた。 今時風にまとめ上げた髪型に雑誌から丸々取ってきたようなファッション、顔つきはジャニーズ事務所に今からでもオーディションにでも行けそうな・・・、いわゆる「イケメン」である。しかし、その人物の本性を知っている優一からしてみればこれでやっとプラスマイナスがゼロになる。 「何だ拓真、言っておくが美少女フィギュアは買わないからな」 優一はそのイケメン、御堂 拓真に否定的な返事をした。実は彼、いわゆるアキバ系だ。 「おいおい優一、オタクに「フィギュアを買うな」は死活問題だぞ。どうせ暇ならサークルに来ないか?姉貴や由佳里ちゃんも来るってよ」 「ふむぅ、それじゃあご一緒させてもらおうかな。それとレッドもいるのか?」 「ったぼーよ、かく言うお前もアカツキちゃんはいつも一緒だろう?」 「私とマスターはいつも一心同体です!」 「それを言うなら以心伝心だろ」 カバンの中から出てきたアカツキに優一は的確なツッコミを入れた。 「おーやっぱりいたか。こんにちはアカツキちゃん。それとどっちもハズレだぞ」 「ハーイアカツキ、ご機嫌いかがかしら」 拓真の上着の胸ポケットから彼の神姫、騎士型のモルドレッドが出てきた。 「拓真さん、レッドちゃんこんにちは。話は聞かせてもらいました。すると、無頼さんもメリッサちゃんもいるんですね」 「そう言うことだ。ささ、行こうぜ」 「はい」 ―十分後・サークル棟内部・神姫同好会部室― 東都大学は他の大学の類に漏れず武装神姫のサークルがある。優一と拓真が所属している「神姫同好会」もその一つだが、初戦は同好会で、活動費用は全員で負担している。 「姉貴ー、クロ連れてきたぞ」 「ご苦労だったな我が弟よ」 部室の一番奥のいすに座った女性が拓真からの報告を受ける。パッチリとした切れ長の二重まぶたにすっきりとした目鼻立ち、髪の毛は焦げ茶のロングヘアーで何も飾り付けはしていないが、よく手入れされている印象を受ける。早い話が「べっぴんさん」だ。彼女の名は御堂 春香(みどう はるか)、拓真の姉であり、この同好会の会長も務めている。 「こんちわっす春香さん。由佳里はまだみたいですね」 「ああ、ゼミで少し遅くなると連絡を受けた所だ。どうせヒマだし、一戦どうだ?無頼もかまわないだろう」 「拙者は主殿の命に従うまでのこと、拒否はせぬ」 傍らに座していた春香の神姫・侍型の無頼も乗り気のようだ。 「ここで引き下がるのは俺の筋に反しますし、良いでしょう。受けて立ちますよ。行くぞアカツキ」 「はい」 実を言うとアカツキは無頼とあまり戦ったことが無く、しかも少ない試合の中で全て負けている。それも無頼本来の戦法が使われたのは一度もない。 「今回ばかりは拙者も本気で征かせてもらうぞ、アカツキ殿もそれでよかろう」 「こちらこそ、全力で征くよ」 今回のバトルフィールドは「円形闘技場」、ローマにあるコロッセオをモチーフにした最もシンプルかつ最も腕が現れるステージである。 アカツキと無頼は既に初期配置に着いている。 今回アカツキはリアウィングを装備していない。その代わりにヴァッフェバニーのバックパックをスラスターとして背中に、アークの後輪を両足に取り付けてランドスピナーとしている。左腕にはシールドではなく、どこぞの戦闘装甲騎からぶんどってきたスタントンファーを装備しており、右手にはビームサブマシンガン持っている。それ以外はいつもと同じだ。 対する無頼は胴と胸、腰回りは紅緒のデフォルト装備だが、左肩に装備されたシールドにはデカデカと「無頼」の文字がペイントされている。手には黒光りする太刀が握られており、左腕には刀の操作に支障が無いよう速射砲を装備している。対抗するつもりかどうかは知らないが、アカツキと同様にランドスピナーを装備している。 「今回は制動刀か・・・、アカツキ、間合いをよく考えて行くんだ」 「わかりました。無頼さん、行きます!」 「先手は譲ろう。いつでも来い!」 天使と武者、紅白が今、ぶつかろうとしていた。 第弐話へ とっぷへ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2237.html
ウサギのナミダ・番外編 少女と神姫と初恋と その5 ◆ オルフェは、目の前にいる神姫たちの態度を奇妙だと思った。 彼女の一番の友人であるパティは、真面目な表情ながらもくつろいだ様子で、何事か話している。 話しかけられている黒いバニーガール型の神姫は、オルフェのデータベースにないタイプだ。おそらくオリジナルなのだろう。 彼女は、先ほどの遠野という人物の神姫だ。 しかし、マスターの態度とは正反対で、やたらと恐縮した様子で、ちらちらとこちらを見ている。 なのに、パティが下へも置かない態度なのも不可解だった。 もう一人はイーダ・タイプで、やたらとくつろいでいて態度も大きい。 ここはファミレスのテーブルの上。それぞれのマスターたちがテーブルを囲んでいる。 「作戦会議はマスターに任せて、神姫同士親睦を深めましょ」 と言ったのは、ミスティと名乗るイーダ・タイプだった。 それでこのように車座になって話しているのだが、見た目の印象とマスターの印象と、現在の態度が、何ともちぐはぐに思えた。 オルフェは不信の目を向けながら、尋ねた。 「あの……」 「なに?」 「本当に、『玉虫色のエスパディア』を倒す方法なんて、あるんでしょうか?」 「ああ。タカキがそう言うんだから、あるんでしょ」 あっけらかん答えたのはミスティである。 仏頂面で苦言を呈したあの男は、別のマスターの神姫からこうも信頼されているのか。 それにしても、その当人の神姫はまったく頼りなく見える。 ミスティとは間逆、オルフェとの顔合わせに恐縮しきっている様子だ。 彼女の方が武装神姫としては先輩のはずなのに。 オルフェの視線に気づいたのか、ミスティが彼女をつついた。 「ほら、あなたも何か言いなさいよ、ティア」 「あ……その……マスターは、できないことは言わない人ですから……」 弱々しげに微笑む黒いウサギを見て、オルフェは驚いた。 ティアと言う名のバニーガール型の神姫。 つい最近、マスターが話しているのを聞いた。 八重樫さんと、マスターのお姉さんが絶賛するという、高機動地上型のオリジナル神姫。 「ティアって……それじゃあ、あなたが、あの『ハイスピードバニー』なんですか!?」 「はい」 ティアはなぜか、困った顔をして頷いた。 ◆ 「あなたが『ハイスピードバニー』のマスター!? あの、運命さえ覆したっていう……」 「誰だ、そんなこと言ってるのは」 安藤の言葉に、遠野は腕組みして渋い顔になった。 機嫌の悪さが増しているような気がする。 美緒は身を縮めざるをえない。 安藤にそう吹き込んだのは彼女なのだ。 向かいに座る遠野の隣にいる菜々子が、吹き出して肩を震わせている。 笑い事じゃないんですけど、と美緒は菜々子をそっと睨んだ。 四人のボックス席には、美緒、安藤、遠野、菜々子が座っている。 もう一つ、隣のボックス席を残りの四人で占拠していた。 遠野の背中側から振り向いて、大城と涼子が話を聞いていた。 遠野は小さく咳払いして、本題を切り出した。 「……俺の策は『玉虫色のエスパディア』との勝率を上げるだけで、必勝の策じゃない。それでいいなら話すが……どうする?」 「お願いします」 安藤は即答した。 いまのままでは、確実に負けなのだ。八重樫を本当に救うなら、蜂須との対決に勝たなくてはならない。 彼はこの対戦に勝つためなら、どんなことでもするつもりだった。すでに覚悟を決めていた。 それに、あの姉が心酔する、八重樫たちが尊敬する、ハイスピードバニーのマスターの策なのだ。ほかの誰の策よりも有効だと信じられた。 「そうか。じゃあ話そう。 さっきから言ってるとおり、君とヤツとでは実力差がありすぎる。 初心者がベテランに勝とうとするなら……奇襲による短期決戦、手数で圧倒……ってところだろうな」 「セオリーね」 菜々子が頷いた。 実力差のある相手に対し、長期戦はあり得ない。 ベテランの方が戦い方の引き出しが多いので、長期戦になるほど対応できない初心者の方が不利になる。 奇襲で相手が対応できないところを一気に叩く。それは戦力差のある敵と戦うときの基本中の基本である。 遠野は『玉虫色のエスパディア』に対する策を話した。 安藤はそれを真剣に聞き、その策で一週間後の土曜日に戦うと約束した。 遠野は頷くと、さらに細かな指示を出した。 「とりあえず、今日から君らは、バトル当日までノーザンには行くな」 「え?」 「練習するところを見られて、どんな策か悟られるわけにはいかないだろう。 だけど、そうなると、別の練習場所が必要だな……」 「『ポーラスター』でいいんじゃない? わたしが話を通すわ」 菜々子はそう言って、遠野に頷いて見せた。 『ポーラスター』は、『エトランゼ』久住菜々子が本来ホームグランドとしているゲームセンターである。 そこでようやく、遠野は微笑む。 「あそこなら問題ない。よろしく頼むよ」 菜々子がにっこり笑って承諾した。 その二人の姿を見て、美緒はあまりの憧れと眩しさに、頭がクラクラしてくる。 そんな美緒には気づかず、遠野は背後のシスターズにも声をかける。 「君たちも、この一週間は『ポーラスター』に通って、安藤くんの練習を手助けしてくれないか」 「もちろんです!」 「言うまでもなく」 「手伝うよ~!」 と、彼女たちは二つ返事で請け負った。 安藤は頭を下げた。 「遠野さん……ありがとうございます」 「……別に、君のためじゃない」 「え?」 「君を助ける義理はないが、八重樫さんは別だ」 その言葉に、美緒は思わず顔を上げた。 「八重樫さんには……ティアを助けてもらっているしな。井山との戦いでは、ティアのために真っ先に叫んでくれた。 その恩人があんなヤツに弄ばれようとしてるのに、黙っているわけにはいかないだろう」 遠野の視線はいつもよりも優しく感じられた。 テーブルの上を見れば、ティアがこちらを見上げ、やはり優しげに微笑んでいる。 こんなに誇らしいことがあるだろうか。 尊敬する神姫マスターに、そんな風に思われていたなんて。 胸が詰まる。 「ありがとう、ございます……」 美緒は深くお辞儀をした。 きっと安藤とオルフェは勝てるに違いない。 そのために、わたしにできることを精一杯やろう。 そう誓う。 そして気づく。 その想いは、かつて菜々子が遠野のために誓ったものと同じだ、ということに。 「礼は、勝ってからにしてくれ」 顔を上げると、遠野は居心地悪そうに明後日の方向を向いていた。 その隣で、菜々子はくすくすと笑っている。 ◆ 「やっぱり遠野くんは優しいね」 「俺が?」 「そうよ。なんだかんだ言って、安藤くんを助けてあげるじゃない」 ファミレスからの帰り道。 陸戦トリオだけになったところで、菜々子はそんなことを言った。 蜂須の言葉に、遠野は怒り、安藤を助けて美緒を守ろうとしている。 しかし、遠野は首を振った。 「確かに、八重樫さんのために彼の手助けをするのは嘘じゃない。だけど、理由はもう一つある」 「え?」 「……そろそろ、『三強』の権威を失墜させておく必要がある。今回はいいチャンスだ」 予想していなかった遠野の言葉に、大城も驚いた。 「三強の権威を失墜って……なんだそれ」 「やつらは言ってみれば井の中の蛙だ。ノーザンというゲーセンの中だけで強いことに満足してしまっている。 しかも、それを傘にきてやりたい放題。『ノーザンクロス』での対戦環境は悪くなる一方だ。 これではノーザンのバトルロンドのレベルが上がるはずがない。 だから、俺たちが動きやすい環境にするためにも、もう一度、三強を叩きのめして、やつらの評判を地に落とす必要がある」 遠野はあの『ポーラスター』を思い出す。 あのゲーセンには、あの時以来たびたび行っているが、行くほどに対戦環境が充実していることに羨望を抱くのだ。 菜々子は顎に手を当てて、考えながら言う。 「なるほど……三強はわたしとミスティが一度叩きのめした。 大城くんたちが、三強を下して、ランキングバトルで一位を取った。 三強の威信が揺らいでいるところに、安藤くんを勝たせることで、さらに大きな揺さぶりをかけるわけね」 「そうだ」 遠野は頷いた。 だが、大城はなおも首を傾げている。 「だけどよ……そううまくいくもんか? 安藤は初心者で、玉虫色はノーザンじゃまだまだ強い方だぜ?」 「うまくいかせるんだ。そのための策だ。 そこで大城……君にもやってもらいたいことがある」 「へ……俺?」 不意に振り向いた遠野の視線に、大城は大いに戸惑った。 ◆ 翌日から、LAシスターズと安藤の姿が、行きつけのゲームセンター『ノーザンクロス』から消えた。 学校でも武装神姫の話はろくにしないし、放課後はそそくさと帰ってしまう。 何か企んでいることは確実だが、蜂須は気にしていなかった。 「どうせ悪あがきだろ。それとも、俺に恐れをなして、逃げ出したのかもな! あーっはっはっは!」 蜂須の高笑いを、大城は一人、じっと聞いていなくてはならなかった。 正直ムカつく。 今すぐにでも因縁つけて、バトロンでも喧嘩でもふっかけてやりたい。 LAシスターズも菜々子もいないことが、大城の不機嫌に拍車をかけている。 だが、ここはぐっと我慢しなくてはいけない。 彼が『ノーザンクロス』で一人くすぶっているのには訳があるのだ。 蜂須のチーム『レインボー・ブレイカーズ』の動向を探るためである。 これは遠野の指示だった。 玉虫色に勝つためには、どうしても連中を見張って動向を見守る必要がある、と遠野は言った。 その役目には、大城が一番適任なのだという。 美緒のピンチでもあるし、そもそも蜂須はいけすかないし、遠野の指示でもあるので、渋々引き受けた。 だが、拍子抜けするほど何もない。 連中は、至っていつも通り、毎日ゲーセンにやってきては、つるんでくだらない話をしているだけだ。 バトルもするが、週末に向けて特別な練習をしているわけではない。 そんないつも通りの様子を遠野に携帯端末で報告する。 本当にこの程度の報告で、何か役に立っているのだろうか。 疑問を一度、遠野にぶつけたところ、とても役に立っていると感謝された。 大城の疑問は深まるばかりだ。 彼が首をひねっているうちに、週末の土曜日はやってきた。 ◆ バトルの時間は、土曜日の十一時と指定されていた。 壁際のいつもの位置で、遠野と大城はバトルが始まるのを待っている。 レインボー・ブレイカーズの連中は、先に来て筐体を陣取っていた。 メンバー同士で軽く練習しているが、『玉虫色のエスパディア』ことクインビーの調子は悪くなさそうに見える。 大城は大丈夫なのか、と遠野を見るが、彼はいつもながら表情が読めない。 鋭い視線でレインボー・ブレイカーズの動向を見ているばかりだ。 玉虫色のマスター・蜂須は、 「安藤はまだかよ。オレが怖くて逃げ出したんじゃねーだろーな?」 と言って笑う。 大城は歯噛みしていたようだが、遠野に気にした様子はなかった。 むしろティアの不機嫌そうな表情に、虎実は首を傾げる。 いつも穏やかな彼女がそんな表情をするのは珍しい。 「なにむくれてんだ、ティア?」 「……この試合のせいで、朝のお散歩がなくなりました」 近所の公園への散歩は、遠野とティアの週末の日課だったはずだ。 虎実は思わず吹き出しそうになり、口を押さえた。 むう、と頬を膨らませて睨むティアもまた珍しい。 十時五十分、ゲームセンターの自動ドアが開いた。 「来たぞ!」 誰かの叫ぶ声。 安藤が先頭で、LAシスターズを引き連れて入ってきた。 遠野は顔を上げた。 忌々しげな顔をした蜂須の向こう、安藤の顔が見える。 一週間前、この場所で遠野に頭を下げに来たときとは、見違える表情だ。 眼光は鋭く、緊張した表情だが、自信に満ちあふれている。 やるべきことをすべてやり尽くした者の顔だ。 安藤は、筐体を挟んで、蜂須と向かい合う。 「おせーぞ、安藤」 「時間はまだ一〇分前だ。それでもお前がはじめるというなら、はじめよう」 「けっ……逃げ出しておけばいいものを……めんどくせえ。さっさとはじめようぜ」 二人は筐体に座ると、神姫のセッティングを開始した。 ◆ 一番最後に入ってきた久住菜々子は、安藤の後ろから離れ、定位置である遠野の隣に立つ。 すかさず遠野が尋ねた。 「仕上がりは?」 「上々ね」 わかってるくせに、と付け加えて、菜々子は苦笑した。 遠野はギャラリーが集まっている筐体の方を見る。 比較的空いている土曜の午前中にもかかわらず、この勝負には多くの観客が集まりっていた。 三強のエスパディア・タイプと、新型のアルトレーネ使いのルーキーが対決する一戦。 人気のLAシスターズのリーダー・八重樫美緒のチーム移籍がかかっていると、レインボー・ブレイカーズのメンバーたちが、この一週間、吹聴して回ったのだ。 だから、注目度の高い試合となっているのだった。 そんなギャラリーの隙間から、対戦者たちの顔がよく見える。 「顔つきだけなら圧勝だが」 遠野のつぶやきにつられ、大城もそちらを見た。 安藤の顔は緊張していた。だが、固くなってはいない。神姫のセッティング作業も落ち着いたものだ。バトルを前に、いい緊張を保っているようだ。 対して、蜂須は憎々しげな顔を、だらりと緩めるところだった。 美緒をなめ回すように見つめている。すでに、バトルに勝ったあとのことで、頭はいっぱいなのだろう。 美緒はやはりうつむきながら蜂須の視線に耐えていたが、先週ほどの弱々しさはなかった。 この一週間の特訓で、安藤との絆も、シスターズ同士の絆も、深まったのに違いない。 だが、大城はやはりさっぱりわからなかった。 彼だけが蚊帳の外で、安藤の練習を見ていないのだ。 「なあ、オルフェはどうやって玉虫色に勝つって言うんだ?」 「見ていれば、すぐにわかる。そんなことより……君たちも準備しておいてくれ」 「は?」 頭の上にクエスチョンマークを浮かべている大城に、遠野はこともなげに言った。 「安藤が負けたら、バトルロンドなら久住さんが、喧嘩なら大城が、玉虫色をぶっとばすんだろ?」 「おい……そりゃずりーだろ……そもそも、そうするのに意味がないって言ったのはお前だろが」 「保険だ、保険。そうでもなきゃ、こんな危険な賭けに、俺の策で戦わせられるものか」 大城と菜々子は顔を見合わせて、同時に肩をすくめて苦笑した。 それでも二人は、安藤の勝利を疑わない。 そう、自分たちは万が一の保険にすぎないのだ。 ◆ アクセスポッドに手をかけ、入り込もうとする自らの神姫を、安藤は呼び止めた。 「……オルフェ」 「はい、マスター」 「……こういうときは、何かお前に声をかけるべきなのかな」 この一週間は、スパルタ訓練の日々だった。 遠野から送られてくる緻密な練習スケジュールは、はじめて見たときにはちょっと気が遠くなった。 その指示に従い、LAシスターズとエトランゼを相手に、バトルロンドの基礎と、今回の作戦を、文字通りたたき込まれた。 神姫と向き合い、ひたすらにバトルした一週間。 正直言って、きつかった。半端じゃなかった。 しかし、つらいだけではなかった。 バトルロンドの奥深さを知り、自分の神姫との信頼を深めることは、とても楽しいことだった。 その努力の結果が、もうすぐ出ようとしている。 オルフェは安藤を見つめて、言った。 「お願いします。マスターの想いを聞かせてください」 「バトルが始まれば、もうお前だけが頼りだ……俺の手は及ばない……だから、頼む、勝ってくれ」 「わかりました。勝ちます。……だから、マスターはわたしが勝つと信じてください」 「ああ、信じる。信じてる、オルフェ」 「はい!」 にっこりと笑いかけたあと、オルフェはアクセスポッドに収まった。 素直さとまっすぐさ、ポジティブな姿勢。オルフェは決して状況を悲観しない。あきらめない。 ならば、俺もオルフェを信じよう。 安藤は気持ちを奮い立たせる。 前を向く。 強敵と向かい合う。 蜂須は、いつものようにいやらしい笑いを顔に貼り付かせていた。 「小細工の準備は終わったか?」 「小細工なんてしない。正々堂々戦う。そっちこそ卑怯な真似とかしないだろうな?」 「誰に口利いてんだ、てめえ。ノーマル装備でも、てめえのヘタレ神姫ごとき、楽勝だ。八重樫は俺たちのもんだぜ」 「まだ決まった訳じゃない。それに、八重樫は物じゃない」 「けっ、ほざけ……さっさとはじめようぜ」 「……わかった。はじめよう」 二人は同時にスタートボタンを押した。 観戦用大型ディスプレイに、このバトルが映し出される。 対戦カードが立体文字で表示される。 「オルフェ VS クインビー」 ギャラリーからひときわ高い歓声が上がった。 美緒は、祈るように、胸の前で手を組んだ。 シスターズの三人は、はらはらとした表情で、観戦用ディスプレイを見上げている。 様々な思いが交錯する中、運命のバトルは幕を開けた。 続く> Topに戻る>
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1954.html
晴れた昼下がり。 特にやることもないのでボーッとしてるわたし。 「何ポケッとしてるの?」 横からわたしの顔を覗き込む人がひとり。 上へはね気味の髪型にはつらつとした表情。 「悩んでることがあったらすぐに私に相談しなさいっ…ごほっ」 胸を叩いて…勢いよく叩きすぎてむせてるこの人は天乃宮未来(あまのみやみらい)、わたしの一年先輩なの。 「でも…先輩は微妙に専門外なの、神姫ファイトの話だから」 「バトロンの事? …スィーマァちゃんの事ね?」 「はい…」 あれから敗北を重ね、後一敗で40連敗。 いまのスィーマァなら勝てる相手でも決着がつかない。 「うーん。…やっぱり精神的な問題じゃないかな?」 「やっぱりその結論に達しますの…」 一度も勝ってない(引き分けはある)となれば、自分のアイデンディティに疑問を持つのは当然。 しかも自分を負かす相手は必ずゲイトだ、自信が持てなくなるのはわかる。 「最低でも年度が変わる前に何とかしないと、下手したら思いつめて…」 その言葉を受けて怖い映像が頭をよぎる。 「ひゃーっ!? まずいよマズイのぉっ」 「慌てない。大事なのは「なにが得意かを気付かせる」って事かしらね」 スィーマァの得意なのこと? …うーん、ケーキの切り分け? 「駄目だこいつ…早く何とかしないと…」 「ひどいですよ先輩~!」 拳と拳がぶつかる。 …拳というより、鉄拳と言った方が適切か(材質的な意味で) 「右から踏み込まれた時の反応が遅い! 相手が拳を握った瞬間に手を出す!」 「ぐぅぅ…!」 アームとアームのぶつかり合い。 本来、機械腕による格闘戦を得意とするムルメルティア。だがスィーマァは正直、アーム戦が苦手であった。 「くぁっ!」 左アームでナァダの攻撃を受け流す…が 「右がガラあきになってるぞ」 ズシッ 「ぐぉふぅ……!?」 本体へ直接攻撃を受け、吹き飛ぶスィーマァ。 「すまん、強く叩き過ぎた」 反応はない、痙攣を起こしている。 「まずいな」 …… 「………う」 「気がついたか?」 右わき腹への鈍痛と共にスィーマァは目を覚ました。 「自動修復機能の許容範囲で良かった。もし限界を超えていたら腹を開かにゃならんしな」 「ぴっ!?」 自分の腹が開かれるのを思い浮かべ縮こまる。 「ふ…ふふ…」 「どうした?」 顔を伏せたまま笑うスィーマァ。 「…私って、ホントに駄目ですね……ふふ」 「おいおい…」 「生まれて一度も勝ったことのない、得意なはずの分野も苦手、オマケに戦意までうしなうなんて…」 ぽろり、ぽろりと零れ落ちる涙。 「私なんて…武装神姫失格ですね…」 ぽんっ そっと頭に置かれる手。 「みぇっ?」 ぱたん そしてそのままナァダの膝枕へ。 「…確かに、戦いの本質は勝つことにある。しかし勝つという気持ちが負けていれば勝てる戦いも勝てない、お前の状況はまさにそれだ」 「……」 「自分に自信が持てない者が勝てるはずが無い、…そのはずだ」 ふわりとした髪を撫でる。 「アーム戦がどうしても駄目なら、その発想を捨ててしまえばいい。ようは逆転の発想だな」 「……」 「…スィーマァ、どうした?」 「…すぅ…」 「何だ、寝てしまったのか。…まあ、話を聞いていたのならどうにかなるだろう」 ~・~・~・~・~・~・~~・~・~・~・~・~・~ 夜、具体的には午後11時05分。 かたっ 「すぴーっ…」 ひゅっ…がたん! 「むぅ……どうも寝苦しい…」 多分夕飯のコロッケが胃をムカムカさせてるんだと思う。 微妙な吐き気を催しつつ起き上がる…と、ここで机に目がいった。 ひゅっ ひゅっ 小さな影が素振りをしていた。 「スィーマァ」 「あ…!? すみません、起こしてしまいましたか?」 「んー、胸やけで起きただけだから違うの」 …そうだ、この際だから聞いてみよう。 「スィーマァ、あなた…ゲイトに勝てる自信ある…?」 それを聞き、少し黙った後。 「自身はないですけど、勝てる見込みは掴みましたよ」 あら、いつの間に? 「だから、ちょっと用意してもらいたい物がいくつか…」 「これで負けたら40連敗だな、古代」 「いちいち言われなくてもわかっているの!! そのテングっ鼻をへし折ってやるから!!」 嫌味で言ってるにちがいない、こいつは昔っからそうだったもん。 「さあ、さっさと始めようぜ」 …… リフトから対戦筺体へと進入してゆく神姫達。 そのデータと姿が液晶に映し出される。 ゲイトはスタンダートなチーグル+サバーカ装備。 対するスィーマァが携えるものは、拳銃ただ一丁のみであった。 「古代、遂にヤケでも起こしたのか?」 「そんな訳ないじゃないの、わたしはいつでも真剣に組んでるもの」 あまりにも自信が溢れているすすみを見 「…何を企んでいる?」 そう呟いた吹雪であった。 [battle start スィーマァVSゲイト] 特攻神姫隊Yチーム?に戻る トップページ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2271.html
1st RONDO 『どいつもこいつも神姫マスター』 『ホイホイさん』 という人形をご存知だろうか。 そのネーミングからなんとなく想像がつくように、この人形は殺虫剤をものともせず室内を走り回る “黒い閃光(通称G)” を駆除するためにマーズ製薬㈱によって生み出された――とはとても思えない、3.5頭身の可愛らしい殺虫人形だ。 俺がまだ高校生2年生だった頃に市場に出回ってからというもの、授業中に持ち主の鞄から抜け出し校舎内を徘徊するホイホイさんが後を絶たなかった。 思い思いの装備に身を包んだホイホイさんは片っ端から害虫をデストロイし、そこら中に死骸の山を築き、挙句の果てに生物部で飼育していた小動物にすら手を掛けてしまったのだが、そこはまあ、どうでもいい。 マーズ製薬曰く 「ホイホイさんは(ゴキブリに殺虫剤が効かなくなったから)冗談のつもりだったのに生産が追いつかない」 と続々とホイホイさんアナザーバージョンを生み出し、他の製薬会社もホイホイさん同様の機種を続々と発表していた頃、大手玩具メーカーのコナミ㈱から、 『武装神姫』 という人形が発売された。 こちらもホイホイさんのように武装させる人形なのだが、大きく違う点として、 ・種類にもよるが、頭身は5~6。ヒトガタに近い。 ・武装は神姫同士の勝負を楽しむためにある。 Gを駆除するためではない。 ・人間と遜色ない会話・行動が可能。腕などの関節部を見なければほとんど小人。 が挙げられる。 スペックの高さから分かるように値は張るものの、この “心を持った人形” で勝負を楽しむだけではなく、生活のパートナーとして扱う者も多い。 さて、男ならば当然の発想として(?)、ホイホイさんと神姫を戦わせてみたくなる。 異種格闘戦にときめかない男など男ではない。 たぶん。 そしてそのトキメキは弓道部内で唯一の神姫マスターであった部長と、その他複数人のホイホイさん達によって実現することとなった。 後に “Mの悲劇” と呼ばれる事件である。 あまりにも酷たらしく、そして惨たらしく殺壊された猫型神姫マオチャオは観戦していた部員達に強烈なトラウマを植えつけた。 その話はまたいつの機会に取っておくとして。 それから大学に進学した今日に至るまで俺は、神姫を購入したくても手を出せないでいる。 ▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽―▲―▽ 夢のキャンパスライフ。 そんなものは所詮夢であったと思い知らされた大学一年目が終わり、しかし春の風と共に乗ってきた幸福感をたっぷりと噛み締め、二年目は軽快に滑り出した。 何せ人生初となる彼女ができたのだ。 春とはいえ過剰に浮かれポンチになっていたとしても、多少は目を瞑ってもらいたい。 それができないならば、俺が無理矢理にでも目を逸らさせてくれよう。 姫乃を有象無象の濁りきった目に晒したくないのだ。 独占欲とはこういうことかと、今更ながらに知った背比弧域である。 しかし現実的に姫乃を独占するのは難しく、今はお互い離れた席に座り、姫乃は彼女の友人達とひそひそおしゃべりを楽しみ、俺の隣には 「すぴー……こーほー……」 講義の最中であろうとお構いなしにふんぞり返って爆睡する貞方がいる。 だらしなく開かれた口に水で濡らしたティッシュを詰め込みたくなる。 人が真面目にノートを取っているというのに、こいつは講義が始まる前から寝息を立てていて、しかもそれでいてこいつは “ノートをしっかりと取っているのだ”。 貞方の机の上で教授の板書が綺麗に現在進行形でまとめられている。 ノートの上で自分の背丈と変わらないシャープペンを一生懸命動かすのは貞方の神姫の、 ええと―― 「ハナコです。 よろしくお願いします、背比さん」 俺の視線に気づいた神姫に突然話しかけられ、うっかりシャープペンを落としてしまった。 まさかいきなり自己紹介されるとは思わなかったから驚いた、わけではない。 というかハナコとはほぼ毎日顔をあわせている。 幼い頃テレビで 「一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟だ」 と着ぐるみ4匹に教わったのを思い出した(昔の教育番組の再放送だった気がする)。 ということは、俺とハナコは兄妹ってわけだ。 ……必然的に貞方とも兄弟になってしまった。 このハナコと名乗る勘のいい神姫は犬型のハウリンと呼ばれるタイプだ。 ケモテック社ならではのコミカルで愛くるしい見た目が特徴的で、 ――マオチャオと同時に発売されただけあって、そのシルエットはトラウマを呼び覚ます。 「……神姫って読心機能ついてんの?」 「あ、いえ。 私の名前を忘れたなー、という顔をされていたので」 そう言ってペコリと頭を下げ、再び作業に戻った。 今は身体を服っぽくペイントされているだけだが、貞方がこの神姫を買ったときに一度 「どうよ俺のハナコ、イカすだろ!」 と武器を持たせた状態で見せられたことがあった。 その時は頭に犬に似せた被り物をさせて、手足もアニメ調の犬らしくなっていた。 なるほど、犬型ね。 ダメ飼い主に文句も言わずノートを取る姿を眺めていると、なんだか俺が心苦しくなってくる。 シャープペンを両手と脇で器用に支えて字を書き、芯が短くなればシャープペンを逆さに持って机に杭を立てるようにノック。 字は綺麗でもさすがに書く速さはどうしようもないらしく、教授の板書について行くためにさっきから一息つくこともなく手を……じゃなく、身体を動かしている。 俺のノートを後でコピーさせてあげたくなるが、結局それが貞方の手に渡ることになるのが気に食わないので、ハナコには申し訳ないのだが、ダメ飼い主を引き当ててしまった運命を全うしてもらうより他はない。 いや待て、何故俺がハナコに気を使わねばならんのだ。 それにしてもハナコの字、綺麗だなあ。 ロボットだからなのか、書道の手本のような明朝体だ。 ……人形よりも字が汚いんだな、俺って。 「あ! ……すみません、背比さん」 「うん?」 「その、大変申し訳ないのですが、シャープペンの芯を一本頂けませんか。 後でちゃんとお返ししますから」 「いや、芯くらいいくらでもやるよ。 ダメ飼い主を持って大変だろ」 「いえ、とんでもな――あ、ありがとうございます――ショウくんのためになれて嬉しいですから」 そう言って、ハナコは微塵の邪気も混ぜずにはにかんだ。 健気だ。 健気すぎる。 その笑顔が眩しすぎて、 「いや、代わりにノートをとるのは貞方のためにならないぞ」 とは口が裂けても言い出せなかった。 というか貞方、自分のことを 「ショウくん」 って呼ばせてるのか。 いつもは 「マスター」 だったと思ったが――ああ、そういうことか。 「なあ。 普段は貞方のことを何て呼んでるんだ」 「普段からショウくんですよ。 でも外では恥ずかしいからマスターと呼べと言わ…………」 「ほう。 普段はショウくん、ね」 「~~~~っ!!」 シャープペンを放り投げてその場に丸くなってしまった。 頭隠して身体隠さず。 抱えた頭を少しだけ上げてこちらを上目遣いで見るハナコ。 どうする、アイフル(何年前のCMだ)。 ただのレンズであるはずの瞳が潤んでいるように見えて、少しだけ、この神姫を可愛いと思ってしまった。 「あ、あの、このことはショ……マスターには、」 「分かってるって。 言わないから安心してくれ」 俺だって知りたくなかったよ。 こいつが人形に 「ショウくん」 と呼ばせてるだなんて。 ホッと胸をなで下ろす仕草も可愛らしく、 「では、くれぐれもよろしくお願いします」 とペコリと頭を下げ、再びシャープペンを抱えた。 まあ、正直に言うと、神姫に自分のことを愛称で呼ばせたくなるのは分からないでもない。 未だ “Mの悲劇” を引きずっているとはいえ、貞方とハナコのように良い付き合い方 (この場合は仲が良いことを指すのであって、神姫にノートを取らせるのはマスターとして、いや人として駄目だ) を見ていると、人間と人形のそんな関係もアリなんだろうな、と思えてくる。 いや、もちろん俺には一ノ傘姫乃という無敵に素敵な彼女がいるわけだが。 ボロアパートの一室、俺の部屋の中に身長15cmの小人が住んでいるのを想像すると、ついつい口が緩んでしまう。 ふと気がつくと、ハナコといつの間にか目を覚ました貞方が二人そろって怪訝そうに俺を見ていた。 「何ニヤついてんの、きめぇ」 さっきまでのコイツのアホ面、写真に撮っとけばよかった。 「そういえば背比、神姫買わないの?」 何が悲しくて、彼女ではなくアホ面野郎と昼飯を食わねばならんのか。 男が全生徒の九割以上を占める工業大学では姫乃曰く 「人数少なくても理系でも、女の子は女の子なの。 良くも悪くも」 だそうで、付き合い始めてからまだ一度も二人で昼飯を食べたことがない。 事情は理解しないでもないが、それでも目の前にいるのが貞方というのが、率直に嫌だ。 「あん? なにが?」 「神姫。 一ノ傘さんも持ってるじゃん」 「は!? なにそれ、俺知らねぇんだけど! なんでお前が知ってんの?」 貞方が思いっきり仰け反って顔を引きつらせた。 何やってんだこいつ。 ……と思ったら、いつの間にか俺が貞方を責めるように身を乗り出していた。 「そりゃだって、見たし。 講義ん時に鞄の中にロバ耳の王様みたくしゃべってて、何やってんだと思ったら神姫が顔だけ出してた。 あのツインテールは確かストラーフ型だったと思う」 コイツが知っていて俺が知らないことがあるのも腹立たしいし、それをコイツから聞いたというのも腹立たしい。 今まで姫乃に、神姫に興味がある素振りはなかったように思うが、何せ神姫といえばハイスペックパソコン並に高価な人形だ。 リカちゃん人形のようにそうホイホイと買えるものではない。 (リカちゃん人形にはホイホイさん並の人工知能しか搭載されていない。 子供に悪影響を与える可能性があるのと、人形メーカーとしての誇りがあるとかないとか。) 俺が神姫の話を振っても 「んー、そうねえ」 と生返事を返すだけだった。 それがどうして? いつ、どこで、なぜ姫乃は神姫を購入するに至った? そして何故それを俺に黙っている? ……姫乃が何を買おうと彼女の勝手なのは分かっているつもりでも、どうも、こう、考えが悪い方に悪い方に向かってしまう。 みみっちい男と笑われるかもしれないが(姫乃に限ってそんなことは有り得ないが)、彼女のことはどんなことだろうと把握しておきたいし。 …………まぁ、何だ。 俺と姫乃ではない第三者が表れ、ソイツの影響で神姫に興味を持ったんじゃないかと邪推しているわけだ、俺は。 情けない男だろ。 ちっちゃい男だろ。 「ほら笑えよ。 笑いたいんだろ、無理矢理笑わすぞコラ」 「意味ワカンネーヨ。 っつーか、仮にその第三者がいたとしても、そいつが男とは限らんだろが」 「だから男だったらどうすんだっつってんだろ! お前責任取れんのかこの糞野郎!」 「はぁ!? カツカレーの食い過ぎで頭イカレたかお前。 ってか一ノ傘さんが浮気とかするわけないだろが。 アホか」 「お前に姫乃の何が分かる!! 適当なこと言ってんじゃねええええええ!!」 「テメエも知らなかったじゃねえか! ウダウダ言ってねぇで本人に聞けやあ!!」 「ハナコにショウくんとか呼ばせてんじゃねぇええぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」 「おまっ!? 何故それ……はなこぉぉおおおあああああああ!!!!」 食堂で騒ぐ馬鹿が二人。 不毛な罵り合いは、貞方の鞄から出てテーブルによじ登ってきたハナコが仲介に入るまで続いた―――― NEXT RONDO 『そうだ、神姫を買いに行こう ~1/4』 15cm程度の死闘トップへ
https://w.atwiki.jp/vtsr/pages/709.html
Let s 神姫! ~武装神姫の化子ちゃん~ by初音ミク黒子&リン http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 http //www.nicovideo.jp/watch/sm1537677 Vocaloid2のオリジナル曲 使用Vocaloidは初音ミク 製作者は武装歌劇派 一つ前のページにもどる